インド人記者が見た“コロナ禍”の五輪 「日本でしか大会開催できなかった」 2021.8.1

 

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インド人記者が見た“コロナ禍”の五輪 「日本でしか大会開催できなかった」 - 東京オリンピック・パラリンピックガイド - Yahoo! JAPAN

2021年08月01日

 

 数えきれないほどの困難と混乱を経て、史上初の1年延期となった東京五輪が7月23日に開幕した。28日には、東京都内で新型コロナウイルスの感染者が3000人を超え、感染増加が止まるめどは現状で立っていないが、その中でも各地で競技は進行している。連日にわたってメダル獲得の快挙が報じられ、それとともに日本国民の五輪に対する反応が少しずつ変化していることは、紛れもない事実ではないだろうか。

 延期、感染防止のための膨大な規定、ほとんどの会場で定められた無観客での開催。空前の感染拡大がとどまらず、異例の形式による実施を強いられた東京大会を、日本にやってきた各国の記者たちはどのように捉えているのか。世界中で新たなスタンダードとなったオンラインでの取材を活用し、正直な意見を聞いてみたいと考えた。

 まず話を聞いたのは、インドの新聞『Indian Express』で記者を務めるミハイル・ヴァサブダさんだ。2010年に南アフリカで行われたサッカーワールドカップや、12年のロンドン五輪など、世界各地の大会に赴き、取材を重ねてきた経験を持つ。国内の感染者数が3000万人を超え、日本よりはるかに危険な状態に陥っているインドをルーツとするヴァサブダ記者に、率直な意見をうかがった。

 

プレイブックの規定は必要だけど、問題点は……
――今回の東京五輪開催について、率直にどう感じていますか?

 

 これまで取材に行った五輪やアジア大会などと比べて、運営に関するレベルは高いと感じています。入国後のホテルでの隔離生活、ホテルから競技場までの移動、食事に至るまで、特に不安なく行うことができています。

 

――今回は今お話に出た入国後の隔離や国内での移動範囲など、新型コロナウイルスの感染防止のためのプレイブックが設けられています。その内容についてはどう考えていますか?

 

 プレイブックに定められた規定については、全て必要な内容だと思います。ミックスゾーン(取材エリア)では選手との距離が遠く作られていて、周りの音も大きいので、互いに大きな声で話さないとコミュニケーションがとれません。ただ、何のために定められたルールかは分かっているので、仕方のないことだと思います。問題点として挙げたいのは、規定として周知されるまでの時間が長くかかったことです。5月後半あたりから週に一度くらいの頻度で変更の連絡があり、さまざまな国の選手や記者が複雑な状況に陥りました。「大会前にはこう伝えられていたのに、現地に着いたらどう対応すればいいか誰も分からなかった」というケースもありました。組織委員会の連絡については、もう少しクリアにした方が混乱は少なかったのではないかと思います。

 

――今大会はここまで厳しい暑さが続く大会にもなっています。その影響についてはどう感じますか?

 

 私はインドのムンバイ市出身なのですが、それと変わらないくらいの暑さですね(笑)。25日はホッケーを取材していたのですが、やはり陽射しがプレーに影響を与えていたと思います。監督の選手交代のペースがいつもより早かったのは、この暑さを考慮してのことでしょう。

 

――インドでは変異株が猛威をふるったこともあり、コロナによって40万人を超える死者が出ています。現在の国内の状況はいかがでしょうか?

 以前と比べたら良くなっています。4、5月が一番深刻で、特に4月には、私の知人やその家族が毎日のように亡くなっていました。それから少し状況は改善し、今では1日の感染者数は3万5千から4万人の間くらいになっています。ただ、インドは日本と比較して10倍以上の人口があるので、それを考えれば今はそれほど悲観するような状況ではないと考えています。

 

――ただ、依然として厳しい状況の中で五輪が行われていることについて、インド国内ではどのような反応があるのでしょうか?

 

 東京五輪が行われることについて、インド国民の多くは不安を感じていました。インドのニュースの多くはアメリカやイギリスから流通しているのですが、その両国のマスメディアが五輪に対するネガティブな情報を多く伝えていたことも、その要因として挙げられます。一方で、インド国内では日本の組織力は世界一だというイメージがあり、パンデミックの中で実際に五輪を開催できる国は日本しかないと考えています。日本が開催するのであれば、間違いなく大会はうまく進行できると。大きな目で見ると、インド国内において五輪の人気は高いですし、若い選手たちのモチベーションにもなっています。社会全体のレベルアップを図ることができれば、インドの選手たちもさらに五輪の舞台で活躍できるはずです。

 

――2032年の五輪誘致にムンバイ市が参加していましたが、惜しくも決定には至りませんでした。今後も誘致活動を続けていく可能性はあるのでしょうか?

 

 先日、ニューデリー市長が「2048年の五輪をデリーで開催したい」という意志を表明しました。その前年にあたる2047年は、インドの独立100周年であり、次の100年が幕を開ける2048年に五輪を開催したいという意図があるのです。その前の誘致は難しいと思いますが、そうした強い気持ちを持っています。

 

――さまざまな混乱はありましたがこうして東京五輪は開幕し、現在は各競技で熱戦が繰り広げられています。今回の東京五輪に求めること、期待することはなんでしょうか?

 

 東京に来てから水泳や射撃、ホッケーなど8つの会場で取材をしてきましたが、どの会場も今までに見たことがないほど、本当に素晴らしいです。インドの選手たちは、こうした会場で競技ができることに興奮していますね。ただ、残念なのはこうした競技場に観客が入っていないことです。ホテルで日本のプロ野球オールスターの試合を見ていたら、何千人という観客が球場に入っていましたが、それなのに五輪で無観客での開催が進んでいる理由はよく分かりません。必ず明確な理由があるとは思うのですが、私には分かりませんね……。

 ともかく、観客がいればさらに素晴らしい大会になっていたと思いますが、それでも選手たちにとって東京五輪はすごくいい経験になると思いますし、世界中のスポーツファンに対してもいい印象を残せるのではないでしょうか。何十年も経った後にこの大会を振り返った時、「コロナの中で行われた五輪」というだけではなく、いろいろな側面でポジティブな内容が語り継がれていくと思います。

 

――今回の経験を踏まえて、次回のパリ五輪ではどのような大会にすべきでしょうか?

 

 正直に言ってしまえば、3年後に世界がどうなっているかは誰にも分からないと思います。今から1年前には「21年にコロナは収束し、これまでのような日常が戻っている」と言われていましたが、現在も感染増加は止まる気配がありません。先日のサッカー欧州選手権では有観客で試合が行われていましたが、大会終了後に再び感染者数が増えたのは、そのことと無関係ではないでしょう。

 今回の東京を踏まえた上で次回のパリ五輪を開催するとしたら、求められるハードルはかなり高いですね。パリの組織委員会も、一生懸命頑張らないと同じレベルで開催するのは難しいでしょう。例えば、日本に来る前は渋滞の問題など、会場からの移動について不安がありましたが、実際の輸送に関する運営はほぼ完璧で、問題はほとんどありません。移動のバスは全てタイムテーブル通りに運行していて、会場についてもスムーズに目的地へたどり着けるような準備がされていることは素晴らしいです。パリでも同じような運営ができるか分かりませんが、東京のレベルまで達していればうれしいですし、頑張らないといけませんね(笑)。

最後にもう1つ。日本のボランティアの皆さんの「おもてなし」は本当に素晴らしいです。少し困ったことがあれば誰かがすぐに話しかけてくれますし、英語が分からない方でもボディーランゲージを交えて「バスの乗り場は向こうです」「忘れ物がありますよ」などと親切に教えてくれます。改めてお礼を伝えたいですね。

 

――少し話はそれますが、女子ウエイトリフティング49キロ級で銀メダルを獲得したチャヌサイコム・ミラバイ選手が、試技の後に必ずバーベルに向かって一礼していたのが印象的でした。あれはインド特有の文化なのでしょうか?

 

 インド国内にはさまざまな文化がありますが、あれはミラバイ選手が育った地域特有の慣習です。彼女はいつでも試技の直前にも礼をしますが、日本で行われる大会だから日本の風習に合わせたわけではなく、彼女の実家がある地域で受け継がれている文化なんです。

 

――また、ミラバイ選手がこの大会で銀メダルを手にしたことで、今後ドミノピザが生涯食べ放題になるというニュースを目にしたのですが、これは本当でしょうか?

 

 実は、そのニュースを最初に発信したのは私なんです(笑)。試合後の取材エリアで話を聞いている時、選手村には好物のピザがあるけど、試合前の減量のためにここまで一度も食べなかったということを言っていました。試合が終わった後に「よし、やっとピザが食べられる!」とコメントしていたので、私がそのことを原稿に書いたら、インドで大人気のエピソードになりました。それにインドのドミノピザ社が反応して、正式に決定されました。なので、本当の話です(笑)。

 

(企画協力・通訳:ブレット・ラーナー、取材・文:守田力/スポーツナビ

 

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